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准保育士資格はなぜ導入されないの?反対の声が多い理由とは

読了の目安:約4分
「准保育士(じゅんほいくし)」という資格をご存じでしょうか?
これは2007年に提案され、導入が検討されている民間認証の資格です。
国家資格である保育士とは異なり、比較的取得が容易なことから、「育児経験者の雇用機会拡大」「保育士の人材不足解消」などさまざまな好影響が期待されています。

しかし、准保育士の設置には保育関係者からの反対の声も多く、いまだ実施には至っていません。
今回はそんな准保育士制度について、これまでの経緯や反対意見など詳しくご説明します。

今回のポイント

准保育士の資格制度とは、一定の研修を経て取得できる民間認証資格

2007年と2014年に准保育士制度の提案がなされた背景と経緯

多くの保育関係者が准保育士資格に反対している理由は「保育の質」維持のため

そもそも、准保育士とはどんな資格?

「准保育士」とは、人材不足が深刻化している保育士の仕事をサポートするために、政府が創設を検討している資格制度のことを言います。
保育士資格の受験制度緩和の一環として、これまで複数回にわたって提案されてきました。

准保育士は国家資格である保育士とは違い、対象者が所定の研修を受けることで取得できる「民間認証資格」です。
その対象となるのは主に育児経験のある主婦で、育児における豊かな経験を保育の現場で活かすことが期待されています。

資格取得までの流れとしては、育児経験者が衛生に関する3ヵ月程度の研修を修了すれば、その後准保育士として保育士のサポート業務を行える、という形で検討が進んでいます。

准保育士の資格制度が実現すれば、人材不足や待機児童といったさまざまな問題の改善につながる可能性があります。
しかしその一方で、高い専門性が失われることによる保育の質の低下が危ぶまれるなど、保育関係者からは資格の創設に反対する声も多く上がっています。

そのため、准保育士資格制度開始にあたってはいまだ多くの課題が残されており、今後の展開が注目されています。

准保育士が生まれる理由

現在、主に都市部において取り沙汰されている待機児童問題や、保育士の深刻な人材不足について早急な改善が望まれています。
准保育士という民間認証資格が提案されたのも、これらの改善につながる、と考えられていることが理由の一つであると言えるでしょう。

そもそも保育士の資格を取得するには、指定の養成機関で2年間学んで卒業するか、専門学校や短大、大学などで2年程度学んで国家試験に合格する必要があります。

そのどちらの条件も満たしていない場合、たとえば最終学歴が高校の場合は2年かつ2880時間以上、中卒では5年かつ7200時間以上の保育所など児童福祉施設での実務経験を積んでから保育士試験に合格しなければなりません。

しかし合格に必要な実務経験は児童福祉施設での実務に限られており、その上無資格で働ける求人そのものがそれほど多くないことから、保育士を目指す人が資格のない状態で実務経験を積むのは困難と言われています。

また、主婦で准保育士を目指そうという場合、研修のための時間を確保するのが難しい、という問題もあります。
しかし准保育士という資格制度が整えば、育児の経験はありながらも保育士の資格取得が難しい人たちの就労機会拡大につながります。
またそれだけでなく、保育士の負担軽減と人材不足解消、ひいては待機児童問題の改善につながるだろう、と期待が寄せられています。

准保育士資格導入をめぐる背景

准保育士資格導入は2007年には提案されていた!

准保育士という資格制度導入について初めての提言がなされたのは、2007年9月14日に行われた第7回規制改革会議の「第7回会合 雇用・就労TF」でのことです。
とある人材企業から、保育に関わる規制を緩和するために提案されました。

育児経験のある主婦がその豊富な経験を活かした仕事に就きたいと考えても、前述の通り保育士の資格がなければ保育所で働くことは非常に困難でした。
そこで、資格を持たない人が保育所での実務経験を通して正規の資格取得が目指せる新しい道筋として、准保育士という資格の創設を提案したのです。

その後、同年10月29日に行われた第8回規制改革会議で制度の検討に入ったものの、保育の質の低下を危ぶむ声や、全国保育協議会と全国保育士会がこれに反対を表明したことから、実施には至りませんでした。

2014年に准保育士資格導入が再び提案される

その後2014年3月に、第7回産業競争力会議の「雇用・人材」分科会にて、社会における子育てインフラの整備の一環として再び准保育士制度が提案・検討されはじめました。

産業競争力会議では、准保育士制度について当初から「育児経験のある主婦層の就労機会の拡大」が主な目的で、保育資格がなくても保育所で働けるという点で、深刻な保育士不足の解消や、都市部の待機児童問題の改善についても期待できると言及されています。

また、同年5月に行われた、当時の厚生労働大臣の会見においては、以下のような主旨の発言がありました。

「准保育士という名称も含めて、准保育士の役割詳細や定義づけについて提案をしているところである。また准保育士は保育士ではないので、保育園における保育士の配置基準にはカウントされない。」

この発言から、この時点ではまだ准保育士の定義や役割分担、研修期間等詳細はなにひとつ決まっていない、ということがわかります。

2016年に大阪府知事の提言で准保育士資格が再度注目される

2016年5月に行われた国家戦略特別区域会議にて、大阪府知事が待機児童解消対策の一案として、准保育士資格の創設をあらためて提言しました。

特区内では認可保育所の設置や運用におけるすべての要素を自治体の判断で決定できるとし、保育士の人員配置基準についても、准保育士などの人材を活用しつつ独自に決められるものとしています。

また、この提言では30~40代の育児経験者や保育士試験一部科目合格者などを准保育士資格の対象とし、保育士資格取得に向けたステップとなるような制度設計が盛り込まれています。

 

 

准保育士が反対される声も…その理由は?

有資格者の労働環境改善が先決

2007年10月の規制改革会議で検討された准保育士制度に対して、翌11月、全国保育協議会と全国保育士会は反対の意向を表明しました。

両者は反対の理由として、まず保育士資格の有資格者に対する労働環境の整備を優先すべきだとしています。

そもそも保育士の資格取得者は累計で160万人にものぼるとされている中で、厚生労働省の発表では、保育士養成施設卒業者のおよそ半数が保育所に就職していないという現状があります。

早期離職者も多く、保育士としての就職を希望しない有資格者の半数以上は、一度保育士として就職したあと5年未満で離職しています。
「業務に対し賃金が見合わない」ことを理由とする声が最も多く、ほかには「有給休暇が取りにくい」「サービス残業がある」「保護者とのミスコミュニケーション」といった理由も大きく関係しています。

そのため全国保育協議会と全国保育士会は、保育士としての就職を希望しない有資格者が保育所で働くことができるよう、労働環境の改善に努めることが准保育士資格創設よりも優先事項であると述べています。

保育士の低賃金を理由とした早期離職率が問題視されている中、准保育士においては、資格を持たないことからさらに低い給与となることが予想され、同様の問題が起こる可能性があります。

「保育の質低下」を危惧する声も

また、保育所における保育の専門性や保育の質の低下につながるおそれがあるという点、保育士のやりがい搾取になりかねないという点も資格創設が反対されている理由です。

さらに、准保育士が実際の現場に入ると、国家資格を持つ保育士に責任がすべて集中してしまうのではないか、とも懸念されています。

以前は高校卒業が条件だった保育士の受験資格が1991年には専門学校や短大卒以上へと引き上げられ、2003年に国家資格となったことからもわかるように、資格取得の難易度は増しています。

また、近年では核家族化やそれに伴う子育ての孤立化問題、女性の社会進出による家庭環境の変化、被虐児や発達障害児の保育施設利用などにより、保育士はさまざまな環境下に置かれている子ども一人ひとりに対応していかなくてはなりません。

それだけでなく、子どもの基本的生活習慣をしっかり身につかせなければならない、という課題もあります。
そのため、より質の高い保育が求められると同時に、保育士の仕事の範囲や責任も大きくなってきているのが現状です。

しかし、こうした時代の流れに逆行する形となる准保育士制度は、対象者が3ヵ月程度の研修のみで取得できるという難易度の低さも問題視されています。

さらに、准保育士制度が実施されれば保育士の待遇がさらに悪化するかもしれないという懸念もあります。それによって保育の質が低下しかねない、と危ぶまれているのです。

「准保育士」というポジション自体は肯定的に捉えられている

ただし、全国保育協議会と全国保育士会は、反対表明の中で、「育児経験者による支援や協力そのものを否定しているわけではない」と明言しています。
あくまで有資格者の労働環境改善が優先、という考えを持っているのです。

このように現場や利用者に与える影響を危惧する一方で、子育ての支援や協力という形で主婦の育児経験が活かされることについては、一貫して肯定しています。

その他、国家資格である保育士との関連性が誤解されかねない「准保育士」という仮称に反対する声もあります。
そのため今後制度が導入された際には、資格の名称が変更となる可能性があるでしょう。

今後はより良い質の保育を目指し、保育士にも准保育士にも働きやすい労働環境を整備していくことが求められます。

おわりに
2007年に最初の提案がなされて以降、折りに触れて准保育士資格の創設が議題にのぼり、各所でさまざまな議論が交わされています。
これは待機児童や保育士不足といった問題において、准保育士という資格の存在が大きな意味を持つことにほかなりません。
ただし、そこには常に保育の質の低下という可能性がつきまといます。
准保育士制度の導入と保育の質の維持を両立するには、保育士の待遇の改善が図られること、また准保育士の存在が保育士のやりがい搾取につながることのないよう慎重に議論される必要があるでしょう。
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参考資料

内閣府ホームページ
http://www.cao.go.jp/

全国保育協議会「「准保育士」導入への反対表明」
http://www.zenhokyo.gr.jp/071130.htm

厚生労働省「田村大臣閣議後記者会見概要」
https://www.mhlw.go.jp/stf/kaiken/daijin/0000047332.html

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