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保護者が園づくりを主導する「親共同保育園」ってどんな園?

保育園 
アメリカで発祥した「親共同保育園」という保育園のかたち。保育園に通う保護者が共同で園の運営の関わっていくという保育園の仕組みです。長い歴史の中で、世界に広がり、時代とともに変化してきた「親共同保育園」のあり方について探っていきましょう。

保育園に子どもを預けている保護者のみなさんに質問です。我が子が通っている保育園の運営方針の決定にどれほど関わっていますか。

そもそも、保育園の運営方針そのものを把握していますか。

保育園に我が子を預けている保護者の多くは、フルタイムの仕事を抱え、忙しい日々を送っている方がほとんど。保育時間内の保育についてはすべて保育園任せで、どのような保育が行われているのかまで関知できないという方も、けっして少なくありません。

また、「いろいろと保育園に対して言いたいことはあるけど“うるさい親”と思われたくないがために口をつぐんでしまっている」という方もいるかもしれませんね。

ですが、本当にそれでいいのでしょうか。子どもたちが保育園で過ごす時期は、将来の基礎をかたちづくるとても大切な時期です。単に保育サービスを受けるだけではなく、もっと積極的に保育に関わってもいいのではないでしょうか。

そんな「保護者の保育に対する関わり方」を探るため、今回は海外に目を向けてみます。アメリカで生まれ、その後多くの国に波及した「親共同保育園」という保育のありかたを解説していきます。

親共同保育園とは?

親共同保育園 保護者

「親共同保育園」とは、いったいどのような保育園なのでしょうか。まずそこから学んでいきましょう。

親共同保育園、英語ではCooperative Childcare(略してCo-op Childcare)といいます。Cooperate、つまり親同士が協力して、保育園の運営を行っていくというありかたです。

もちろん、日々の子どもたちを見守るのは保護者が払う保育料や寄付金などによって雇われたプロの保育士。この点は、みなさんが知っている一般的な保育園と変わりません。

保護者が積極的に保育園運営に参加

親共同保育園の大きな特徴は、保護者の積極的な参加にあります。

保護者も定期的に保育園のクラスに参加し、自分の子どもだけではなく他人の子どものお世話も行うというシステムです。

また、定期的に運営会議を開き、保護者も一緒になって運営方針を決めています。政府により多少の運営基準は設けられていますが、保護者の意見やその地域の実情や課題に応じて、柔軟に独自のカリキュラムが作ることができるという点は特徴的といえるでしょう。

このように、親共同保育園には保護者が受け身ではなく、積極的に保育に携わることができる仕組みが整っていることが大きな魅力です。

親共同保育園の歴史

続いて、親共同保育園の歴史をひも解いていきましょう。

親共同保育園の始まりは非常に古く、1916年にシカゴ大学の教員の妻たちによって設立されたものに起源があるといわれています。

さらにその11年後、1927年にはカリフォルニア州でテイラー博士が親共同保育園を立ち上げます。このテイラー博士こそが親共同保育園の普及に大きく貢献した人物です。

テイラー博士は核家族化が進む中、親共同保育園を“一つひとつの小さな家族をつなぎ、大家族のように助け合う関係性を築く施設”ととらえました。

そして、1954年に親共同保育園について書かれた『Parents and Children Learn Togetherを出版。本書は後に、世界の親共同保育におけるバイブルとなり今日まで役立てられています。

そして1964年には、親共同保育の国際組織『Parent Cooperative Preschools International(PCPI)』を設立。親共同保育は世界レベルの活動にまで発展していきました。

親共同保育園のメリット

では、親共同保育園には具体的にどのような利点があるのでしょうか。

保護者が保育に関わることで“気づき”を得られる

親共同保育園の大きなメリットはもちろん、保護者が積極的に保育に関われること。それは単に運営面だけではなく、日々の園生活にも及びます。

前述したとおり、親共同保育園では保護者が定期的にクラスに参加し、子どもたちのお世話を行います。最初は、他人の子どものお世話をすることに違和感をおぼえる保護者も少なくありません。ですが、いろいろな子どもと接することができるこの経験は、後の子育てに役立つほか、保育士など専門家と話す機会を得ることで知識も深めることができると好評です。

きめ細やかな保育を実現できる

保護者のクラス参加は、保護者だけではなく、子どもたちにも大きなメリットをもたらします。

通常、アメリカの一般的な保育園における先生と子どもの割合は1:8~1:12ほど。ですが、親共同保育園の場合はこれに保護者が加わるため、保育園の大人と子どもの割合は1:5になります。

これだけ多くの大人がいれば、普段では気づかないような異変にも気づくこともでき、よりきめ細やかな保育を行うことができます。

地域社会との関係構築にも

また、親共同保育園の運営スタイルの大きな特徴として、運営者は子どもたちの入れ替わりとともに常に入れ替わります。前の世代から次の世代へとこれを繰り返しているうちに、以前保育園に通っていた子どもが、親となって戻ってくるということもよくあります。

歴史の長い親共同保育園だと親子三代通っているなんてことも珍しくありません。地域社会とより深い関係を築くことができ、地域社会の経験の蓄積が保育園の運営に大きく活かされることも大きな利点のひとつといえるでしょう。

親共同保育園の発祥の国・アメリカの現状

親共同保育園という保育のかたちを生み出したアメリカですが、親共同保育園の数は今、減少傾向にあります。

その理由はなんといっても共働き家庭の増加。保護者に大きな負担を強いる、親共同保育園は共働きが当たり前となって社会では難しくなっているのが実情です。

親共同保育園の活動が活発といわれているカリフォルニア州においても、州全体にある1万1048ヵ所の保育施設のうち、登録されている親共同保育園の数はわずか171ヵ所。全体のわずか1.5%です。

ですが、そんな状況においても親共同保育園というかたちを残していこうという動きは根強くあります。中には、保護者のクラス参加の負担を夫婦で分担したり、祖父母や兄弟といった親戚に頼んだりしてまで我が子を親共同保育園に通わせているという保護者もいます。

やはり、その理由は「我が子が保育園でどのような生活をしているかを見ることに価値があるから」

時代が移り変わっても、親共同保育園は保護者にとって非常に魅力的な存在であることはかわりありません。保育園側もそのような時代の変化に合わせて、「可能なときに参加する」というかたちにシフトしています。

これからの親共同保育園のあり方にも要注目です。

日本の親共同保育園と未来

日本では、残念ながら「親共同保育園」のような保育方針を打ち出している園はほとんどありません。

横浜国立大学の相馬直子准教授の調査によると、「親が運営する幼児教育・保育施設」の児童数の割合はニュージーランドでは12%、スウェーデンは4.8%など、けっして多い数字ではないものの一定の割合を占めています。
ですが、日本ではこのような事例は見られません。

そもそも、日本には保護者が運営する保育施設とはどういうものかという定義すらなく、よって正式な統計というものが存在していないのが実情です。

他国の事例を見てみると、保育園運営に保護者の意見を反映させる会の設置を義務付けたり(ノルウェー、デンマーク、ドイツ、オランダ、スウェーデン、韓国)、推奨したり(フランスの保育所)しています。ですが、日本においては、そのような会の設置の義務も推奨もありません。

このように、親の保育への参加という点では日本は他の国に大きく後進しているのが現状です。

ですが、これは単に保育だけの問題ではありません。日本の労働者の労働時間を考えると、保育園の運営に積極的に参加するというのは無理があります。

労働時間が長く、大切な我が子の保育に関知する余裕がない…というのは、深刻な課題です。

この問題の解決には社会全体の努力が不可欠です。国や地方自治体に丸投げするのではなく、一人ひとりが力を合わせて世の中を変えていくことが必要なのではないでしょうか。

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