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保育教育に影響を与えた、アイザックスとは?
目次
スーザン・アイザックスとは?
スーザン・アイザックスは、第一次世界大戦・第二次世界大戦という2つの大戦があった時代に、マンチェスター大学・ケンブリッジ大学で学士課程・修士課程を修め、生涯研究活動や啓蒙活動を行った人物として知られているイギリスの心理学者。
また、精神分析の創始者として知られるフロイトの精神分析に関心を持ち、精神分析家として臨床に携わった人物とされています。
日本では知名度が低いアイザックスですが、子どもは物事を客観的に見たり、論理的に考えることができないとするピアジェの「自己中心性」を否定して、幼児も論理的な思考と高い学習能力があると主張し、保育の現場や保育者の養成に大きな影響を与えました。
アイザックスの仕事として知られる2つ試み
アイザックスは、“幼い子どもにとって教師や学校は何か”という問いを掲げ、その問いに対する答えを導き出すために2つの試みをしています。
子どもたちの日常生活の中での活動を重視
アイザックスの試みの1つとして、モールティング・ハウス校での研究が知られています。
モールティング・ハウス校は、デューイ実験学校やモンテッソーリ法に基づく教育学実験室として整備された学校。
アイザックスは、モールティング・ハウス校で、子どもたちの自由な活動を見守る日々を過ごします。
そして、子どもたちの興味が身近な自然や道具に集まることを知り、子どもたちが興味や疑問を持ったことに対して、わかりやすく工夫した仕掛けを作り出すなどの方法をとりました。
例えば、兄弟が生まれたことで“誕生”に興味を持った子供に対して、卵からひなが孵る過程を観察したり、小動物を飼育することなどを通して、環境の中で学習できるようにしています。
これらの研究によって、幼児が論理的に考え、学習能力が高いという結論を導き出し、1930年には『幼児の知的発達』を、そして1933年には『幼児の社会性発達』を発表しました。
保育の現場や保育者の養成に大きく影響
アイザックスの2つ目の仕事として知られているのは、1933年のロンドン大学教育部児童発達学科を新設した際の活動。
アイザックスは、コース・デザインを任されて、初代の主任として就任しています。
児童発達学科は、児童の発達研究や教育を実践した時の調査や分析、そして、教員の養成課程での研修を目的に新設された学科。
主任として在籍する間、親や教師を対象とした臨床相談のコラムを執筆し、幼児の心について事例を用いて語ることで、イギリス国民の幼児理解を深めたとされています。
アイザックスの下に学んだ教員の中には、その後の保育の現場や保育者の養成に大きな影響を持った人もたくさん。
国際的な交流や保育者・保育者の養成の中心的な役割を果たしました。
幼児期における家庭外の保育の重要性を提唱
恵まれた家庭であれば、習い事をしたり、いろんなところへ出かけたりとさまざまな経験をすることができますが、アイザックスは、幼児の成長や発達には、家庭外における保育が重要であると述べています。
両親が教育熱心な家庭であっても、学校の教師は両親にはできない役割を果たすことができるとしていて、保育を「幼児」「親」「教師」という3つの要素から独自のとらえ方をしています。
実体験によって現実と幻想を区別
アイザックスによると、3歳から7歳の幼児は、すでに超自我(内在化された両親像)を内部に抱えた存在で、その超自我の下に自我を確立していかなくてはならないとしています。
この超自我は、無意識的なもの。両親のイメージを内在化したもので、“幼少期における親の置き土産”とも言われています。児童精神分析家であるMクラインによると、生後間もない子どもは、外界からの事柄によって感じたことを、事柄そのものとしてみなすとしていて、不安や恐怖を感じた時には、攻撃的になるとしています。自分の理想でもあるとされる超自我。物事の正誤の判断や、自分の感情や行動のコントロールをするものでもあります。
幼児期には区別がついていない現実と幻想。この2つを区別するのは、実体験であり、体験を通して現実と幻想とが区別されることによって、子どもは発達することができるとしています。
親は子どもの幻想の最大の源
アイザックスは、「親」の存在は、他の高等動物に共通し、子育て機能の担い手であるとしています。他の動物と同様に、健やかな生存に必要なものを与える存在ですが、動物と違って扶養期間が長いことから、子どもの成長に応じて、無条件で与えていたものを拒否したり、引き上げたり条件をつけて与えるようになるとしています。
子どもは、親は自分を左右する支配者としてとらえる被扶養体験をする一方で、性的な発達のために、3歳頃からエディプス関係に入り、愛憎の激しい葛藤を体験するとしています。
つまり、親は子どもの内部の幻想の最大の源泉であり、親子で過ごす家庭は、幼児期の子どもにとって緊張状態を強いられる場でもあるとしています。
教師はより現実的な世界にいざなう存在
アイザックスの保育者論では、学校の基本的構成が大きな意味を持ち、教師は幼児の自我を確立するのを助ける存在であるとしています。
親と子どもが単独で向き合う家庭に対し、学校は複数の子どもを受け入れる場所であり、子どもは単独で教師と向き合う必要が無い場所でもあります。
そのため、教師は親ほど幻想に影響を及ばさず、より広い現実的な世界、「人類の知恵と文化遺産の世界」にいざなうことができます。
アイザックスは、担当する幼児に共通の存在として、一定の言動で子どもと関わることを“親機能の標準化”と名付けました。
アイザックスの保育者像とは?
アイザックスの保育者は、モールティング・ハウス校での教育技術を用いて子どもと接する専門家のこと。
この教育技術は、子どもの主体的な活動を“制限・抑制する技術”と“発展・喚起させる技術” の2つに分けられます。
“制限・抑制する技術”は、最小限度の約束ごとを守ることによって、身辺の自立や安全・衛生の確保、虐待防止、社会生活を送るうえで生じる不都合を回避することなど、合理的な根拠に基づくとされています。最小限度の約束事には、登下校や食事の時間の固定、火を使う時の規則や道具を暴力的に使用することを禁止することなどが挙げられます。
また、“発展・喚起させる技術”は、環境整備や活動の選択の自由を保障すること、そして、化学的な教育内容の導入などが挙げられます。これらは、教師に「学習のモデル」であったり、「共同研究者」や「遊び仲間」であることを課しています。
これは、幼児が外界に“投射”するだけでなく、“摂取”もしているということから、「モデル」となって現実世界を示すことによって、子どもを外界へ導くことができるという理論からなっています。ただし、現実世界を示すだけでは子どもが導かれ無いことも多いため、関心を外に向けさせる手段として「遊び仲間」となって幻想を共有することが有効であるとしています。そして、幼児は知識が乏しいため、外界を探求する道筋を示す「共同研究者」となることも大切であるとしています。
子どもにとっての教師の存在を追求したアイザックス
子どもにとって、教師はどのような存在であるのかを追求したアイザックス。アイザックスは、研究の結果、単独で大人と向き合わずに済む保育は、幼児の発達において重要であるとしています。この考え方は、児童の発達に欠かせない保育教育の現場や保育者の養成に大きな影響を与え、現在の保育教育にも生かされています。